現地ドイツの食材で欧州がうなる一杯が完成

ヨーロッパでラーメン店が急速に増えつつある。当初は、現地に住む日本人向けがメーンだったが、今やヨーロッパ人をマーケットとした店が続々とオープンしている。ドイツもその例外ではない。そのなかでも最も注目を浴びているのが、ドイツ・フランクフルトにある「無垢MUKU」。国内の有名店が海外進出をする例は珍しくないが、同店はフランクフルト店が第1号店。6月25日から「新横浜ラーメン博物館」で、2号店「無垢MUKUツヴァイテ」を凱旋出店する山本真一店主に聞いた。


〝無垢〞な気持ちでラーメンに向き合う

無垢ツヴァイテラーメン 1,200円

無垢ツヴァイテラーメン 1,200円
ドイツの食材の塩漬けした背油の「スペック」、7種のスパイスをブレンドした「ジーベン」がアクセントになっている

「『あなたはどうして、すぐ近くにある当たりくじを引こうとしないの?』って、妻によく言われるんです」と山本店主は言う。大学卒業後、ドイツで食品卸事業をグローバルに展開している会社に就職。ドイツ語が分からない状況からスタートして、努力の末につかみ取ったトップセールスマンの地位を惜しげもなく手放して、ラーメン店を開業。修業の経験はない。潤沢な資金があるわけでもない。それでもラーメン店を立ち上げたのは、やすきに流れることを潔しとしない山本店主の気性からだった。
営業マンとしての実績が買われて、取引先のラーメン店に再建役として出向。無事に任務を終え、社内での待遇がさらによくなった。しかし、売上げの数字を追うことと、現場の実情との間に乖離(かいり)を感じた山本店主は「お客さんに直接、感動を伝える仕事がしたい」と現場で働くことを選択。2010年、28歳のときに「無垢な気持ちでラーメンと向き合う」ことを決意し、「無垢MUKU」をオープン。そこから山本店主のラーメン作りの戦いが始まる。


「無垢な気持ちでラーメンを作り続けたい」と語る山本真一店主

「無垢な気持ちでラーメンを作り続けたい」と語る山本真一店主
 麺を作るにも、日本とドイツとでは粉も違えば水も違う。日本なら容易に手に入る食材やラーメン作りに関する情報がドイツにはない。あるのは、自分の中にあるおいしいラーメンのイメージだけ。目指すゴールは見えているが、そこにたどり着くルートが分からなかった。
「ドイツには日本と同じ食材はない。ここにあるもので作るしかないんです」とドイツで入手できる食材を駆使して、自分が目指すラーメンを追い続けた。そして完成したのが「無垢ラーメン」だった。
「日本で開業したら、もっと簡単に作れたのでは?」という考えを山本店主は否定する。「日本ではこのラーメンは誕生しなかったと思います。ドイツにある食材で工夫したからこそ、本当のオリジナリティーが出せたんです。最初は何をどうしたらいいのか、まったく分からないし、アドバイスしてくれる人もいなくて孤独な戦いでした。でも、今はドイツでスタートしてよかったと思っています」と困難を乗り越えた満足感を語る。
made in Japan のラーメンをただ模倣するだけではなく、ラーメンの基本を押さえながらも、その土地ならではの食材と食文化を融合させて、新しいラーメンを創造する。「無垢MUKU」のラーメンは、世界中で〝ご当地ラーメン〞が誕生する期待へとつながっていく。


1ヵ月の来店客は約4000人 ヨーロッパ全土から集客

無垢ラーメン(900円)

無垢ラーメン(900円)
※現地9€
ドイツ・フランクフルト店の看板ラーメン。独学で横浜家系の豚骨醤油味風に

 2010年8月開業。立地はフランクフルト郊外の高級住宅地。フランクフルトはドイツの金融街で、多くのサラリーマンが働いている。人口は約68万人。フランクフルト店の店舗面積は90㎡、席数55席。家賃は約2000€。
「開業資金を節約しようと思って、業者に頼まずに自分たちで水回りから電気関係までやっていたら、オープンするまでに4ヵ月もかかってしまいました。その間、家賃が発生していたから、資金的にはもうギリギリでしたね。店をなんとか形にしないと、開店する前に倒産するという状況でした」とスタートから苦戦。

屋号の通り無垢の木を使用したドイツ店の内装

屋号の通り無垢の木を使用したドイツ店の内装
 やっとのことで開店したが、オープン初日の来客はたったの2人。盛況を見込んで用意していたスープが無駄になった。1週間、そんな状況が続いた。看板やホームページがなく、宣伝も一切しない。しかし「無垢MUKU」のラーメンの評判が、じわじわと口コミで広がっていった。
それでも一気に繁盛したわけではない。「最初のうちは興味本位もあって、そこそこお客さんが来てくれました。でも、やはり自分たちの実力以上にははやらないもので、開店翌年の1〜2月ごろから売上げが落ち込みました」と低迷時期を経験する。メニュを見直すなど地道な立て直しをした結果、2012年から急速に勢いを得て、一気に繁盛店へ駆け上がった。

写真右の自転車の後ろが店舗。看板のないシンプルな外観

写真右の自転車の後ろが店舗。看板のないシンプルな外観
 来客数は平日約100人強、昼間の営業がある土曜約200人強、日曜1 0 0 人弱。半数は日本人だが、残りはヨーロッパ全土から集客。フランクフルトへ出張にくるたび来店するという常連客もいる。客席の半数が予約席で、予約は1ヵ月先まで埋まっているという。
客単価は20〜25€。客は日本酒とつまみを楽しんだあと、締めとしてラーメンを注文する。ラーメンをメーンにしたレストランスタイルでデザートも提供している。


ピザ用小麦粉とデュラム粉で作る麺 固定観念にとらわれないラーメン作り

 「無垢M U K U 」のラーメンの特徴は、何といっても麺にある。日本ではほとんど使われることのない、ピザ用の小麦粉とパスタ用のデュラム粉を配合。さらに、ラーメンの麺の素材としては通常考えられない雑穀系の粗い粉も配合。ドイツの小麦粉はパン用が主流でラーメンの麺には適さず、ヨーロッパ中の小麦粉を試した結果、この麺にたどり着いた。麺自体の味と香りがしっかりした、独特のかみ応えのある麺に仕上がっている。
スープは、この自己主張の強い麺に負けないものを目指して「今でも常に追っかけている」という。基本は豚骨醤油。看板メニューの「無垢ラーメン」は横浜家系ラーメン風の豚骨醤油。ドイツ人に人気の「焦げ味噌ラーメン」は鶏油で焼いた味噌をスープと合わせることで、味噌の香ばしさととろみを出す。今回、「新横浜ラーメン博物館」出店を記念して開発した「無垢ツヴァイテラーメン」は、ドイツの郷土料理のザワークラウトをワインで煮込み、酸味を取り除いてうま味を閉じ込め、その後、鶏油で火を入れてスープと合わせる。トッピングはドイツで「スペック」と呼ばれる塩漬けにした背脂を揚げたもの、ドイツのスパイス「ジーベン」、そしてベーコン。濃厚なスープと程よい酸味がマッチし、スペックとジーベンがアクセントになっている。まさに1つの丼の中で日本のラーメンとドイツの食文化が融合した逸品だ。


商社営業からラーメン店主に

山本 真一(やまもと・しんいち)

山本 真一(やまもと・しんいち)

1981年山梨県韮崎市生まれ。自称「日本一忙しい小学生」というほど習い事とスポーツで多忙な日々を送る。小5で身長が170㎝近くあった体格を生かして、少年野球でピッチャーとして活躍するが、ひじの故障で野球を断念。バスケットに転向し、インターハイや国体に出場。しかし大学2 年のときに「もろもろの事情」で退部し、傷心を抱えたままロンドンに語学留学する。「今思えば“自分探しの旅”だったんでしょうね。結局見つかりませんでしたけど」と言う。帰国後、テレビ制作会社に就職するが、たまたま見つけた食品商社の求人募集に応募。1ヵ月後にはフランクフルトに赴任。ドイツ語もできないまま1日車で700㎞を駆けめぐる営業マンとして働き始める。その後、取引先のラーメン店に出向し、経営の立て直しをする。そのときの経験がモチベーションとなって「無垢MUKU」を立ち上げる。子どものころからラーメン好きではあったが、修業経験はない。自分の求める味をドイツで調達した食材を使って創造する困難さに立ち向かった結果、「バスケットをやめてから何をしても物足りなさを感じ、夢中になれることを探し求めていた」山本店主の心の空洞を埋めたのがラーメンだった。


「無垢MUKU」の愛用食材

ジーベン(Sieben)

ジーベン(Sieben)
販売元=Ingo Holland
http://www.ingo-holland.de/
http://www.ingo-holland-shop.de/Gewuerze/
Gewuerzmischungen/Sieben.html

日本のラーメンとドイツの食材が見事に調和した「無垢ツヴァイテラーメン」に欠かせないのが、ドイツのスパイス「ジーベン」。“ミスタースパイス”と呼ばれているインゴ・ホランド氏が、7種類のスパイスを絶妙の比率で混ぜ合わせたもの。氏はもともとミシュランの星付きレストランのシェフで、スパイスを追求するあまり店を手放しスパイス専門店を開業。パンチの効いた辛さと爽やかな後味が特徴で、肉料理などに主に使用される。「無垢ツヴァイテラーメン」の味のアクセントになっている。

adminラーメントレンド現地ドイツの食材で欧州がうなる一杯が完成 ヨーロッパでラーメン店が急速に増えつつある。当初は、現地に住む日本人向けがメーンだったが、今やヨーロッパ人をマーケットとした店が続々とオープンしている。ドイツもその例外ではない。そのなかでも最も注目を浴びているのが、ドイツ・フランクフルトにある「無垢MUKU」。国内の有名店が海外進出をする例は珍しくないが、同店はフランクフルト店が第1号店。6月25日から「新横浜ラーメン博物館」で、2号店「無垢MUKUツヴァイテ」を凱旋出店する山本真一店主に聞いた。 〝無垢〞な気持ちでラーメンに向き合う 無垢ツヴァイテラーメン 1,200円 ドイツの食材の塩漬けした背油の「スペック」、7種のスパイスをブレンドした「ジーベン」がアクセントになっている 「『あなたはどうして、すぐ近くにある当たりくじを引こうとしないの?』って、妻によく言われるんです」と山本店主は言う。大学卒業後、ドイツで食品卸事業をグローバルに展開している会社に就職。ドイツ語が分からない状況からスタートして、努力の末につかみ取ったトップセールスマンの地位を惜しげもなく手放して、ラーメン店を開業。修業の経験はない。潤沢な資金があるわけでもない。それでもラーメン店を立ち上げたのは、やすきに流れることを潔しとしない山本店主の気性からだった。 営業マンとしての実績が買われて、取引先のラーメン店に再建役として出向。無事に任務を終え、社内での待遇がさらによくなった。しかし、売上げの数字を追うことと、現場の実情との間に乖離(かいり)を感じた山本店主は「お客さんに直接、感動を伝える仕事がしたい」と現場で働くことを選択。2010年、28歳のときに「無垢な気持ちでラーメンと向き合う」ことを決意し、「無垢MUKU」をオープン。そこから山本店主のラーメン作りの戦いが始まる。 「無垢な気持ちでラーメンを作り続けたい」と語る山本真一店主  麺を作るにも、日本とドイツとでは粉も違えば水も違う。日本なら容易に手に入る食材やラーメン作りに関する情報がドイツにはない。あるのは、自分の中にあるおいしいラーメンのイメージだけ。目指すゴールは見えているが、そこにたどり着くルートが分からなかった。 「ドイツには日本と同じ食材はない。ここにあるもので作るしかないんです」とドイツで入手できる食材を駆使して、自分が目指すラーメンを追い続けた。そして完成したのが「無垢ラーメン」だった。 「日本で開業したら、もっと簡単に作れたのでは?」という考えを山本店主は否定する。「日本ではこのラーメンは誕生しなかったと思います。ドイツにある食材で工夫したからこそ、本当のオリジナリティーが出せたんです。最初は何をどうしたらいいのか、まったく分からないし、アドバイスしてくれる人もいなくて孤独な戦いでした。でも、今はドイツでスタートしてよかったと思っています」と困難を乗り越えた満足感を語る。 made in Japan のラーメンをただ模倣するだけではなく、ラーメンの基本を押さえながらも、その土地ならではの食材と食文化を融合させて、新しいラーメンを創造する。「無垢MUKU」のラーメンは、世界中で〝ご当地ラーメン〞が誕生する期待へとつながっていく。 1ヵ月の来店客は約4000人 ヨーロッパ全土から集客 無垢ラーメン(900円) ※現地9€ ドイツ・フランクフルト店の看板ラーメン。独学で横浜家系の豚骨醤油味風に  2010年8月開業。立地はフランクフルト郊外の高級住宅地。フランクフルトはドイツの金融街で、多くのサラリーマンが働いている。人口は約68万人。フランクフルト店の店舗面積は90㎡、席数55席。家賃は約2000€。 「開業資金を節約しようと思って、業者に頼まずに自分たちで水回りから電気関係までやっていたら、オープンするまでに4ヵ月もかかってしまいました。その間、家賃が発生していたから、資金的にはもうギリギリでしたね。店をなんとか形にしないと、開店する前に倒産するという状況でした」とスタートから苦戦。 屋号の通り無垢の木を使用したドイツ店の内装  やっとのことで開店したが、オープン初日の来客はたったの2人。盛況を見込んで用意していたスープが無駄になった。1週間、そんな状況が続いた。看板やホームページがなく、宣伝も一切しない。しかし「無垢MUKU」のラーメンの評判が、じわじわと口コミで広がっていった。 それでも一気に繁盛したわけではない。「最初のうちは興味本位もあって、そこそこお客さんが来てくれました。でも、やはり自分たちの実力以上にははやらないもので、開店翌年の1〜2月ごろから売上げが落ち込みました」と低迷時期を経験する。メニュを見直すなど地道な立て直しをした結果、2012年から急速に勢いを得て、一気に繁盛店へ駆け上がった。 写真右の自転車の後ろが店舗。看板のないシンプルな外観  来客数は平日約100人強、昼間の営業がある土曜約200人強、日曜1 0 0 人弱。半数は日本人だが、残りはヨーロッパ全土から集客。フランクフルトへ出張にくるたび来店するという常連客もいる。客席の半数が予約席で、予約は1ヵ月先まで埋まっているという。 客単価は20〜25€。客は日本酒とつまみを楽しんだあと、締めとしてラーメンを注文する。ラーメンをメーンにしたレストランスタイルでデザートも提供している。 ピザ用小麦粉とデュラム粉で作る麺 固定観念にとらわれないラーメン作り  「無垢M U K U 」のラーメンの特徴は、何といっても麺にある。日本ではほとんど使われることのない、ピザ用の小麦粉とパスタ用のデュラム粉を配合。さらに、ラーメンの麺の素材としては通常考えられない雑穀系の粗い粉も配合。ドイツの小麦粉はパン用が主流でラーメンの麺には適さず、ヨーロッパ中の小麦粉を試した結果、この麺にたどり着いた。麺自体の味と香りがしっかりした、独特のかみ応えのある麺に仕上がっている。 スープは、この自己主張の強い麺に負けないものを目指して「今でも常に追っかけている」という。基本は豚骨醤油。看板メニューの「無垢ラーメン」は横浜家系ラーメン風の豚骨醤油。ドイツ人に人気の「焦げ味噌ラーメン」は鶏油で焼いた味噌をスープと合わせることで、味噌の香ばしさととろみを出す。今回、「新横浜ラーメン博物館」出店を記念して開発した「無垢ツヴァイテラーメン」は、ドイツの郷土料理のザワークラウトをワインで煮込み、酸味を取り除いてうま味を閉じ込め、その後、鶏油で火を入れてスープと合わせる。トッピングはドイツで「スペック」と呼ばれる塩漬けにした背脂を揚げたもの、ドイツのスパイス「ジーベン」、そしてベーコン。濃厚なスープと程よい酸味がマッチし、スペックとジーベンがアクセントになっている。まさに1つの丼の中で日本のラーメンとドイツの食文化が融合した逸品だ。 商社営業からラーメン店主に 山本 真一(やまもと・しんいち) 1981年山梨県韮崎市生まれ。自称「日本一忙しい小学生」というほど習い事とスポーツで多忙な日々を送る。小5で身長が170㎝近くあった体格を生かして、少年野球でピッチャーとして活躍するが、ひじの故障で野球を断念。バスケットに転向し、インターハイや国体に出場。しかし大学2 年のときに「もろもろの事情」で退部し、傷心を抱えたままロンドンに語学留学する。「今思えば“自分探しの旅”だったんでしょうね。結局見つかりませんでしたけど」と言う。帰国後、テレビ制作会社に就職するが、たまたま見つけた食品商社の求人募集に応募。1ヵ月後にはフランクフルトに赴任。ドイツ語もできないまま1日車で700㎞を駆けめぐる営業マンとして働き始める。その後、取引先のラーメン店に出向し、経営の立て直しをする。そのときの経験がモチベーションとなって「無垢MUKU」を立ち上げる。子どものころからラーメン好きではあったが、修業経験はない。自分の求める味をドイツで調達した食材を使って創造する困難さに立ち向かった結果、「バスケットをやめてから何をしても物足りなさを感じ、夢中になれることを探し求めていた」山本店主の心の空洞を埋めたのがラーメンだった。 「無垢MUKU」の愛用食材 ジーベン(Sieben) 販売元=Ingo Holland http://www.ingo-holland.de/ http://www.ingo-holland-shop.de/Gewuerze/ Gewuerzmischungen/Sieben.html 日本のラーメンとドイツの食材が見事に調和した「無垢ツヴァイテラーメン」に欠かせないのが、ドイツのスパイス「ジーベン」。“ミスタースパイス”と呼ばれているインゴ・ホランド氏が、7種類のスパイスを絶妙の比率で混ぜ合わせたもの。氏はもともとミシュランの星付きレストランのシェフで、スパイスを追求するあまり店を手放しスパイス専門店を開業。パンチの効いた辛さと爽やかな後味が特徴で、肉料理などに主に使用される。「無垢ツヴァイテラーメン」の味のアクセントになっている。あたらしい視点でラーメンを伝える情報誌!