どん底からはい上がった自分流を確信

2012─2013 TRY新人賞 つけ麺部門1位」の栄誉に輝いた「啜磨専科」の「ザ・しおつけ麺」の麺は、「えっ! これがラーメン店の麺⁉」と意表をつくものだ。4割を全粒粉が占めているというその麺は、そばと見まごうような色合いだが、食べてみると確かにつけ麺の味と食感。さらに全粒粉ならでの麦の香ばしさが口の中に広がる。スープにこだわるラーメン店主は多いが、後藤将友店主は麺にとことん執着する。「麺がうまければ店はつぶれない」という彼のラーメン哲学を取材した。


まず1人で日販50杯を目指す

まず1人で日販50杯を目指す

開口一番、後藤店主は「自分のラーメンに対する志って、そんなに高くないんですよ。子どものころからラーメン好きで食べ歩いていたとか、自分の店を持つことが昔からの夢だったとか、そういうのはないんです」と切り出した。
高校卒業後、寿司屋に就職したが、1年後にバブルがはじけて倒産。大手ラーメンチェーン店をはじめいくつかの飲食店を経験したあと、20代半ばで喫茶店を経営するが、すぐに閉店に追い込まれる。「素人経営だったんでしょうね。手痛いつぶし方をしました」と店を存続させることの厳しさを思い知らされた。
その後、「麺場浜虎」の立ち上げにかかわり、メニュー開発なども担当して活躍するが、独立を決断することはなかった。その背中を力強く押したのが「あなたならできる!」という妻の言葉。「1回つぶしてどん底を見ているので、自分の店を持つことが怖かったんでしょうね。でも家族を食べさせるくらいなら、1日50〜60杯も売ればいいと思いました」と2009年に「G麺7」をオープン。
後藤店主がこだわったのが麺。当時のラーメン業界は「餅は餅屋に任せる」という考え方から製麺会社に発注する店が少なくなかった。だが、後藤店主は既製麺では満足できなかった。「他店にはない麺を出して、『おっ!』と驚いてもらえれば、お客さんは必ずついてきてくれる」という信念があったからだ。小麦粉の種類だけではなく、麺の断面の形状にもこだわり、切刃を特注。「粉や加水率だけでは伝わりにくいですから、形状や色といった見た目でも違いを出そうと思いました」。閉店後、午前2時から6時まで1人で麺を打ったあとに仮眠をとり、昼の営業を始めるという日々が1年間続いた。
「G麺7」が軌道に乗り、2年前に啜磨専科をオープン。後藤店主いわく「G麺7では王道のラーメンで直球を投げ、ここでは実験的な変化球のラーメンで勝負をしたい」。もちろん麺にはとことんこだわり、店の看板メニュー「ザ・しおつけ麺」の麺は4割が全粒粉という常識破りのもの。形状も、独特の乱切り平打ち形にするために切刃を特注している。
「志が低い」と謙虚に語り始めた後藤店主だが、ラーメンの可能性を追求する志はどこまでも高い。


啜磨専科

所在地=神奈川県横浜市港南区上大岡2─14─15
営業時間=午前11時半〜午後2時半、6時〜11時、木曜定休

ザ・しおつけ麺(並)(880円)


40代オヤジにうまい! と言わせるラーメン

向かって左から「啜磨専科」の「ザ・しおつけ麺」「正油らぁめん」、「G麺7」の「らーめん」の自家製麺

向かって左から「啜磨専科」の「ザ・しおつけ麺」「正油らぁめん」、「G麺7」の「らーめん」の自家製麺
開業は2011年12月。立地条件は京急本線・上大岡駅から徒歩5~6分。2009年に開業したG麺7のすぐ近くだ。大岡山駅前を通る国道21号線から1本裏手の通りに面しているが、「立地が悪くてもうまいラーメンは人を呼べる」という後藤店主の信条通りに、近隣で働くサラリーマンや住民はもちろん、ネット検索して、わざわざ訪れるラーメンフリークも多い。
店舗規模は4坪8席。狭い上に細長い三角形の変形地なため「借り手がいなかったら、賃料は10万円です」と、店を1軒つぶした経験から固定費を抑えている。麺を箸で持ち上げたときに、麺の色が映えるように内装は黒が基調。
「若い女性を取り込むための味作りを工夫をする店も多いけど、若い女性の好みなんて自分にはわからない。30代でG麺7を開業したときは30代男性にウケる店、40代手前で開業したこの店は、40代オヤジに『うまい!』と言わせる店にしたいと思って店を作りました。ターゲットを絞って核となる客層をつかんだことで、むしろ客層が広がったと思っています」
単価は平均930円。来店者は平日は12・5〜13回転、土・日は17回転。


朝びき鶏がらでスープを炊く ブランドよりも鮮度にこだわる

「ザ・しおつけ麺」の麺は全粒粉4割、強力粉6割でまとめ上げる。「正油らぁめん」は水分を吸収する粉と吸収しにくい粉との絶妙の配合バランスで、細麺・多加水なのに伸びにくい麺を可能にした。
麺は粉類の配分だけではなく、形状や色といった見た目に違いを出す。「ザ・しおつけ麺」は乱切り平打ちにして太さの違う麺の食感を楽しむことができる。「啜磨専科は麺も変化球で勝負しています。こんな麺もできるんだということをやってみたかった」(後藤店主)。ちなみにG麺7の「らーめん」の麺は楕円の丸歯の14番を使用し喉ごしのよさを追及している。
スープは朝びきの鶏のがらと豚皮を7時間炊く。それ以上加熱すると、コラーゲンが壊れるので7時間を厳守。スープはいったん冷まし、表面に凝固した脂を捨てる。「鶏肉はブランドではなく鮮度にこだわっています。朝びきの鶏がらから出るだしは、ブランド鶏に引けをとらないほどおいしいけど、脂はよくない。脂はカモからとった脂を足します。40代オヤジは、質のいい脂を少しだけとりたいんです」という後藤店主のこだわりだ。使用する鶏肉も豚肉も、冷凍や真空パックの過程を一切通過していない新鮮なものを厳選。
たれは白ワインと鶏皮を炊き、「ザ・しおつけ麺」はベトナム産の「タインホアの塩」で味付け。「正油らぁめん」は6種類の醤油をブレンドする。
店名を「啜磨専科(すすりませんか)」とした理由を尋ねると「『啜』って、口編に「又」の字が4つもついているんですよ。麺をすすって、すすって、すすって、またすするという意味なんです。うちの店にまさにピッタリの漢字だと思いませんか」という答えが返ってきた。


正油らぁめん(並)(750円)

正油らぁめん(並)(750円)

麺は細麺。水分を吸収しにくい粉を混ぜることで、加水率は高いが伸びにくい麺を実現。仕上げにかける自家製のゴボウ香味油が香ばしい


Snow Queen of Sea Salt タインホアの塩

Snow Queen of Sea Salt タインホアの塩

海中結晶のミネラル豊富なまろやかな塩
グローカル日本橋(東京都中央区)
べトナムのタインホア地方は美しい海、強い太陽光線、そしてケイ砂でできたシリカ地など最高の条件がそろった塩田。この塩は、その塩田の海水をわずか数日で自然に結晶化したものをすくい取るという非常に珍しい製法で作られた「海中結晶塩」。天然ミネラルを豊富に含んだまろやかな風味が特徴だ。「にがりが入っていないので、まろやかな味。うちの「ザ・しおつけ麺」の塩分はこの塩だけです」
規格=10㎏


後藤 将友(ごとう・まさとも)

後藤 将友(ごとう・まさとも)

1972年東京都北区生まれ。
高校卒業後、寿司屋に就職するが、1年後にバブル景気がはじけて店が倒産。その後、大手ラーメンチェーン店に入社するが2年で退職。イタ飯屋などの厨房などを経験したのち、独立してパスタ中心の喫茶店を開業するがあえなく倒産。苦境にある中、2002年、大手ラーメンチェーン店で働いていたときの同僚の誘いを受けて、横浜の「麺場浜虎」の立ち上げに参加し、その後も店の発展に貢献する。7年間「麺場浜虎」で働いたのち、「嫁さんに尻をたたかれて」独立を決意。2009年、「G麺7」をオープン。ちなみに「G」は後藤、「7」は妻の名前「奈々絵」さんの「なな」からとったとのこと。「麺のおいしい店を一緒に頑張っていこうね」という思いが込められているとか。「G麺7」が順調に軌道に乗り、2011年12月に「啜磨専科」を開業。
「啜磨専科」という屋号は、父親の行きつけの床屋「切磨専科」からヒントを得て、その店から許可をもらって命名した

adminラーメントレンドどん底からはい上がった自分流を確信 2012─2013 TRY新人賞 つけ麺部門1位」の栄誉に輝いた「啜磨専科」の「ザ・しおつけ麺」の麺は、「えっ! これがラーメン店の麺⁉」と意表をつくものだ。4割を全粒粉が占めているというその麺は、そばと見まごうような色合いだが、食べてみると確かにつけ麺の味と食感。さらに全粒粉ならでの麦の香ばしさが口の中に広がる。スープにこだわるラーメン店主は多いが、後藤将友店主は麺にとことん執着する。「麺がうまければ店はつぶれない」という彼のラーメン哲学を取材した。 まず1人で日販50杯を目指す 開口一番、後藤店主は「自分のラーメンに対する志って、そんなに高くないんですよ。子どものころからラーメン好きで食べ歩いていたとか、自分の店を持つことが昔からの夢だったとか、そういうのはないんです」と切り出した。 高校卒業後、寿司屋に就職したが、1年後にバブルがはじけて倒産。大手ラーメンチェーン店をはじめいくつかの飲食店を経験したあと、20代半ばで喫茶店を経営するが、すぐに閉店に追い込まれる。「素人経営だったんでしょうね。手痛いつぶし方をしました」と店を存続させることの厳しさを思い知らされた。 その後、「麺場浜虎」の立ち上げにかかわり、メニュー開発なども担当して活躍するが、独立を決断することはなかった。その背中を力強く押したのが「あなたならできる!」という妻の言葉。「1回つぶしてどん底を見ているので、自分の店を持つことが怖かったんでしょうね。でも家族を食べさせるくらいなら、1日50〜60杯も売ればいいと思いました」と2009年に「G麺7」をオープン。 後藤店主がこだわったのが麺。当時のラーメン業界は「餅は餅屋に任せる」という考え方から製麺会社に発注する店が少なくなかった。だが、後藤店主は既製麺では満足できなかった。「他店にはない麺を出して、『おっ!』と驚いてもらえれば、お客さんは必ずついてきてくれる」という信念があったからだ。小麦粉の種類だけではなく、麺の断面の形状にもこだわり、切刃を特注。「粉や加水率だけでは伝わりにくいですから、形状や色といった見た目でも違いを出そうと思いました」。閉店後、午前2時から6時まで1人で麺を打ったあとに仮眠をとり、昼の営業を始めるという日々が1年間続いた。 「G麺7」が軌道に乗り、2年前に啜磨専科をオープン。後藤店主いわく「G麺7では王道のラーメンで直球を投げ、ここでは実験的な変化球のラーメンで勝負をしたい」。もちろん麺にはとことんこだわり、店の看板メニュー「ザ・しおつけ麺」の麺は4割が全粒粉という常識破りのもの。形状も、独特の乱切り平打ち形にするために切刃を特注している。 「志が低い」と謙虚に語り始めた後藤店主だが、ラーメンの可能性を追求する志はどこまでも高い。 啜磨専科 所在地=神奈川県横浜市港南区上大岡2─14─15 営業時間=午前11時半〜午後2時半、6時〜11時、木曜定休 ザ・しおつけ麺(並)(880円) 40代オヤジにうまい! と言わせるラーメン 向かって左から「啜磨専科」の「ザ・しおつけ麺」「正油らぁめん」、「G麺7」の「らーめん」の自家製麺 開業は2011年12月。立地条件は京急本線・上大岡駅から徒歩5~6分。2009年に開業したG麺7のすぐ近くだ。大岡山駅前を通る国道21号線から1本裏手の通りに面しているが、「立地が悪くてもうまいラーメンは人を呼べる」という後藤店主の信条通りに、近隣で働くサラリーマンや住民はもちろん、ネット検索して、わざわざ訪れるラーメンフリークも多い。 店舗規模は4坪8席。狭い上に細長い三角形の変形地なため「借り手がいなかったら、賃料は10万円です」と、店を1軒つぶした経験から固定費を抑えている。麺を箸で持ち上げたときに、麺の色が映えるように内装は黒が基調。 「若い女性を取り込むための味作りを工夫をする店も多いけど、若い女性の好みなんて自分にはわからない。30代でG麺7を開業したときは30代男性にウケる店、40代手前で開業したこの店は、40代オヤジに『うまい!』と言わせる店にしたいと思って店を作りました。ターゲットを絞って核となる客層をつかんだことで、むしろ客層が広がったと思っています」 単価は平均930円。来店者は平日は12・5〜13回転、土・日は17回転。 朝びき鶏がらでスープを炊く ブランドよりも鮮度にこだわる 「ザ・しおつけ麺」の麺は全粒粉4割、強力粉6割でまとめ上げる。「正油らぁめん」は水分を吸収する粉と吸収しにくい粉との絶妙の配合バランスで、細麺・多加水なのに伸びにくい麺を可能にした。 麺は粉類の配分だけではなく、形状や色といった見た目に違いを出す。「ザ・しおつけ麺」は乱切り平打ちにして太さの違う麺の食感を楽しむことができる。「啜磨専科は麺も変化球で勝負しています。こんな麺もできるんだということをやってみたかった」(後藤店主)。ちなみにG麺7の「らーめん」の麺は楕円の丸歯の14番を使用し喉ごしのよさを追及している。 スープは朝びきの鶏のがらと豚皮を7時間炊く。それ以上加熱すると、コラーゲンが壊れるので7時間を厳守。スープはいったん冷まし、表面に凝固した脂を捨てる。「鶏肉はブランドではなく鮮度にこだわっています。朝びきの鶏がらから出るだしは、ブランド鶏に引けをとらないほどおいしいけど、脂はよくない。脂はカモからとった脂を足します。40代オヤジは、質のいい脂を少しだけとりたいんです」という後藤店主のこだわりだ。使用する鶏肉も豚肉も、冷凍や真空パックの過程を一切通過していない新鮮なものを厳選。 たれは白ワインと鶏皮を炊き、「ザ・しおつけ麺」はベトナム産の「タインホアの塩」で味付け。「正油らぁめん」は6種類の醤油をブレンドする。 店名を「啜磨専科(すすりませんか)」とした理由を尋ねると「『啜』って、口編に「又」の字が4つもついているんですよ。麺をすすって、すすって、すすって、またすするという意味なんです。うちの店にまさにピッタリの漢字だと思いませんか」という答えが返ってきた。 正油らぁめん(並)(750円) 麺は細麺。水分を吸収しにくい粉を混ぜることで、加水率は高いが伸びにくい麺を実現。仕上げにかける自家製のゴボウ香味油が香ばしい Snow Queen of Sea Salt タインホアの塩 海中結晶のミネラル豊富なまろやかな塩 グローカル日本橋(東京都中央区) べトナムのタインホア地方は美しい海、強い太陽光線、そしてケイ砂でできたシリカ地など最高の条件がそろった塩田。この塩は、その塩田の海水をわずか数日で自然に結晶化したものをすくい取るという非常に珍しい製法で作られた「海中結晶塩」。天然ミネラルを豊富に含んだまろやかな風味が特徴だ。「にがりが入っていないので、まろやかな味。うちの「ザ・しおつけ麺」の塩分はこの塩だけです」 規格=10㎏ 後藤 将友(ごとう・まさとも) 1972年東京都北区生まれ。 高校卒業後、寿司屋に就職するが、1年後にバブル景気がはじけて店が倒産。その後、大手ラーメンチェーン店に入社するが2年で退職。イタ飯屋などの厨房などを経験したのち、独立してパスタ中心の喫茶店を開業するがあえなく倒産。苦境にある中、2002年、大手ラーメンチェーン店で働いていたときの同僚の誘いを受けて、横浜の「麺場浜虎」の立ち上げに参加し、その後も店の発展に貢献する。7年間「麺場浜虎」で働いたのち、「嫁さんに尻をたたかれて」独立を決意。2009年、「G麺7」をオープン。ちなみに「G」は後藤、「7」は妻の名前「奈々絵」さんの「なな」からとったとのこと。「麺のおいしい店を一緒に頑張っていこうね」という思いが込められているとか。「G麺7」が順調に軌道に乗り、2011年12月に「啜磨専科」を開業。 「啜磨専科」という屋号は、父親の行きつけの床屋「切磨専科」からヒントを得て、その店から許可をもらって命名したあたらしい視点でラーメンを伝える情報誌!