スープの1度C、たれの1㏄さえも妥協しない

「那由多」という言葉をご存知だろうか?漢字文化圏の数の単位で一、十、百、千、万、億……と21単位続く中の上から3番目。ちなみに、そのあとは「不可思議」「無量大数」となり、一般的には10の60乗といわれている。「一二三の基本から始めて、無限の可能性を目指すという思いを込めて付けました」と小林健太郎店主。高2のときにすでに自分の店を持つことを決意し、100%満足のいくラーメン作りを目指し始める。以来、その目標に向かって邁進中だ。現在、その途上をどこまで極めたのか? 28歳の若き店主が語った。


目指すは究極の 「引き算」のラーメン

目指すは究極の 「引き算」のラーメン

小林店主は、自分のことを「筋金入りのラーメンバカだ」と言う。自らをそう形容するには理由がある。
高校生のときに「きっかけはよく覚えていない」がラーメンに関心を持ち、食べ歩きを始めた。ところが、どれもそこそこはおいしいが、100%の満足は得られない。当時、行列ができる有名店にも足を運んだが、満足度は7~8割程度。何か物足りない。これでは満足できない。埋まらない空白感を抱えた小林青年は、もどかしさに悶々とする。そして、たどり着いたのが「100%満足のできるラーメンを自分で作るしかない」という結論だった。
100%を目指すからには、1%たりとも妥協は許されない。1%というのは、単なる言葉のあやではない。ただし、小林店主の場合は〝1度C〟たりともだ。スープは注文を受けてから雪平鍋で温める。それをそのまま、丼に注いでもいいところを、小林店主は雪平鍋からスープを別の容器に移して、さらに湯煎にかける。
「直火で温めていると、火からおろすタイミングが1秒ずれるだけで、スープのバランスが崩れるんです。ジャスト90度Cで丼に注ぐのがベスト。1度Cたりともぶれてはいけない」とその完璧主義ぶりは、やはり筋金入りだ。
もうひとつ、こだわりの道具が1・25㏄の計量スプーンを菜箸に付けたもの。料理レシピでよく使われる小さじは5㏄だから、その4分の1が計量できる。ラーメン作りでそこまで微調整する必要が、果たしてあるのか?
「それがあるんです。湯煎用の容器には常時、1人前以上のスープが入っていますが、時間がたつと煮詰まって味が強くなる。通常は、決まったレードルにきっちり1杯ですが、スープの味が強くなった場合に、この計量スプーンで調整します」と言うが、その微妙な味の変化に気付く客は少ないはずだ。
「僕の小難しい理屈なんてどうでもいいんです。フラリと立ち寄ってくれたお客さんが、なんかよくわからないけどおいしくて、思わずスープを飲み干しちゃった、というのが一番うれしいですね」と、いわゆる〝ラーメンフリーク〟と呼ばれる人たちのウケは気にしない。
「100%満足できる理想のラーメンにどれくらい近づきましたか?」と聞くと「一、二、三から始まって、今〝六〟くらいかな」と謙虚だが、そのまなざしに那由多に限りなく近づいている自信と気概を垣間見た。


魚沼三元豚 中華そば (750円)

魚沼三元豚 中華そば (750円)

らぁめん一二三 那由多
東京都武蔵野市吉祥寺北1─10─22
営業時間=平日正午~午後3時、5時~9時、
土・日・祝日正午~午後3時、5時~9時、火曜定休、

※ただし売り切れ次第終了。商品名は取材当時のもの。
同店のラーメンは常に進化しているので来店時に変更の可能性あり。


昼夜合わせて100杯が限度 1杯杯に精魂を込める

魚沼産の三元豚入りそぼろと豚足を香ばしくあぶった「那由多ご飯」。 醤油だれと香味油をかけて鰹節を添えた「ネギご飯」。

小林店主が店主を務めるようになったのは、2011年11月。以前の店は「一ニ三」という店名で開業していたが、2代目店主が体調不良で引退。そのあとを引き継ぎ、3代目となる。店舗立地は、JR吉祥寺駅北口から徒歩約10分の五日市街道沿い。12坪、カウンター10席を小林店主と大学時代の友人が切り盛りしている。
客層は幅広く、サラリーマン、学生はもちろん家族連れも来店する。客単価は約1000円。1杯ずつスープの温度調整と丼に注ぐ適量を極めて緻密に行っているため、「昼夜の営業時間でそれぞれ50杯作るのが限度だ」と言う。
スープに使用する素材には強いこだわりがあり、厳選しているため原価率は35%と高い。「安い素材を大量に入れても、本物の味は出せませんから」とここも譲らない。
現在の看板メニューは、醤油の「魚沼三元豚 中華そば」だが、「いつか塩ラーメン一本でやっていける店にしたい」という目標を掲げる。小林店主が理想とするラーメンとは「素材をとことん吟味し、不要なものをそぎ落とした先にたどり着く味。究極の〝引き算のラーメン〟ですね」と語る。

魚沼産の三元豚入りそぼろと豚足を香ばしくあぶった「那由多ご飯」。
醤油だれと香味油をかけて鰹節を添えた「ネギご飯」。どちらも並200円、小100円


食材にかけるコストは他店と一桁違う スープの温度は90度Cを厳守

こだわりの徹底に欠かせない1.25㏄の計量スプーンと、デジタル芯温センサー(温度計)

スープは魚沼産の三元豚と大山地鶏で取る。植物性飼料だけ育つ魚沼産三元豚は、通常の豚よりもはるかに飼育期間が長く、豚特有の臭みがない。炊いたときにうま味だけが溶け出し、スープの品格を上げる。豚と鶏の比率は約7対3。
和風だしに使用する魚介類の詳細については企業秘密とのことだが、昆布は北海道産、鰹節は鹿児島県枕崎産、煮干しは長崎と千葉産とだけ。「煮干しに関しては、おそらく日本のラーメン店の中で一番いいものを使っていると自負しています」というこだわりだ。昆布は根元の部分だけを3種類使用。白い粉状のうま味成分がビッシリと付いている。
醤油は濃口と再仕込みの2種類を使用。チャーシューは「三元豚を使用したいところですが、原価率が高くなりすぎて商品として成立しない」ので国産豚を使用。「ラーメンはスープと麺だけで成立すると僕は考えています。具材は、実を言うと何を置いても邪魔になるんです」と言う。
徹底的にこだわった魚介の素材から作る和風だし、香味油、魚沼産の三元豚の背油、醤油だれに、90度Cにきっちり測ったスープを注ぐ。スープは炊いたものを一晩寝かせる。それを雪平鍋に注いで火にかけて、ほぼ90度Cまで温めたものを別の容器にとり、湯煎をした状態で、温度計で正確に90度Cにしてから丼に注ぐ。まるで科学の実験を見ているようだ。
こだわりの徹底に欠かせない1.25㏄の計量スプーンと、デジタル芯温センサー(温度計)


二段仕込 匠 正金醤油(香川県小豆郡小豆島町)

らぁめん一二三 那由多の愛用食材

二段仕込 匠 正金醤油(香川県小豆郡小豆島町)
うま味が強く塩辛さが少ない濃厚な醤油

正金醤油では、1919年の創業当時から仕込み続けている杉の木桶を用いた天然醸造醤油を生産。本品の原材料は国内産丸大豆100%、国内産小麦100%、メキシコ産天日製塩100%。醤油に再度、麹を仕込み、1年間醗酵熟成させたもろみから搾った再仕込醤油。刺し身、寿司、冷や奴、漬け物、焼き魚など、つけ、かけ用に適する。「らぁめん一二三 那由多」では、本品と濃口醤油を使用。どちらも小林店主が目指す100%の味に欠かせない。

規格=900ml


小林 健太郎(こばやし・けんたろう)

小林 健太郎(こばやし・けんたろう)

16歳で構想したラーメン人生
1984年東京都江東区生まれ。
高校生のころからラーメンの食べ歩きとラーメン店でのアルバイトを始める。高校卒業時にすでに自分の店を持つことを決意するが、「このままラーメン屋の修業に入ってしまっては、同じように7~8割しか満足できないラーメンしか作れないと思ったんです。人間としての視野を広げることが、いつか自分が作るラーメンに生かせるはずだ」と成蹊大学・国際文化学科に入学。在学中に世界の麺文化を研究し、卒業論文のテーマは「文化麺類額」。
在学中、知人がラーメン店を立ち上げるのに参画。卒業後、和食店で1年間働いたのち、「学生時代からここの店はおいしいと思っていた」と言う、「那由多」の前身店の「一二三」で働き、ラーメン修業を積む。当時の店長の許可を得て、「宵の一二三」という名で夜の営業を始め、自分が目指すラーメンの研鑽を重ね、現在に至る。

adminラーメントレンドスープの1度C、たれの1㏄さえも妥協しない 「那由多」という言葉をご存知だろうか?漢字文化圏の数の単位で一、十、百、千、万、億……と21単位続く中の上から3番目。ちなみに、そのあとは「不可思議」「無量大数」となり、一般的には10の60乗といわれている。「一二三の基本から始めて、無限の可能性を目指すという思いを込めて付けました」と小林健太郎店主。高2のときにすでに自分の店を持つことを決意し、100%満足のいくラーメン作りを目指し始める。以来、その目標に向かって邁進中だ。現在、その途上をどこまで極めたのか? 28歳の若き店主が語った。 目指すは究極の 「引き算」のラーメン 小林店主は、自分のことを「筋金入りのラーメンバカだ」と言う。自らをそう形容するには理由がある。 高校生のときに「きっかけはよく覚えていない」がラーメンに関心を持ち、食べ歩きを始めた。ところが、どれもそこそこはおいしいが、100%の満足は得られない。当時、行列ができる有名店にも足を運んだが、満足度は7~8割程度。何か物足りない。これでは満足できない。埋まらない空白感を抱えた小林青年は、もどかしさに悶々とする。そして、たどり着いたのが「100%満足のできるラーメンを自分で作るしかない」という結論だった。 100%を目指すからには、1%たりとも妥協は許されない。1%というのは、単なる言葉のあやではない。ただし、小林店主の場合は〝1度C〟たりともだ。スープは注文を受けてから雪平鍋で温める。それをそのまま、丼に注いでもいいところを、小林店主は雪平鍋からスープを別の容器に移して、さらに湯煎にかける。 「直火で温めていると、火からおろすタイミングが1秒ずれるだけで、スープのバランスが崩れるんです。ジャスト90度Cで丼に注ぐのがベスト。1度Cたりともぶれてはいけない」とその完璧主義ぶりは、やはり筋金入りだ。 もうひとつ、こだわりの道具が1・25㏄の計量スプーンを菜箸に付けたもの。料理レシピでよく使われる小さじは5㏄だから、その4分の1が計量できる。ラーメン作りでそこまで微調整する必要が、果たしてあるのか? 「それがあるんです。湯煎用の容器には常時、1人前以上のスープが入っていますが、時間がたつと煮詰まって味が強くなる。通常は、決まったレードルにきっちり1杯ですが、スープの味が強くなった場合に、この計量スプーンで調整します」と言うが、その微妙な味の変化に気付く客は少ないはずだ。 「僕の小難しい理屈なんてどうでもいいんです。フラリと立ち寄ってくれたお客さんが、なんかよくわからないけどおいしくて、思わずスープを飲み干しちゃった、というのが一番うれしいですね」と、いわゆる〝ラーメンフリーク〟と呼ばれる人たちのウケは気にしない。 「100%満足できる理想のラーメンにどれくらい近づきましたか?」と聞くと「一、二、三から始まって、今〝六〟くらいかな」と謙虚だが、そのまなざしに那由多に限りなく近づいている自信と気概を垣間見た。 魚沼三元豚 中華そば (750円) らぁめん一二三 那由多 東京都武蔵野市吉祥寺北1─10─22 営業時間=平日正午~午後3時、5時~9時、 土・日・祝日正午~午後3時、5時~9時、火曜定休、 ※ただし売り切れ次第終了。商品名は取材当時のもの。 同店のラーメンは常に進化しているので来店時に変更の可能性あり。 昼夜合わせて100杯が限度 1杯杯に精魂を込める 小林店主が店主を務めるようになったのは、2011年11月。以前の店は「一ニ三」という店名で開業していたが、2代目店主が体調不良で引退。そのあとを引き継ぎ、3代目となる。店舗立地は、JR吉祥寺駅北口から徒歩約10分の五日市街道沿い。12坪、カウンター10席を小林店主と大学時代の友人が切り盛りしている。 客層は幅広く、サラリーマン、学生はもちろん家族連れも来店する。客単価は約1000円。1杯ずつスープの温度調整と丼に注ぐ適量を極めて緻密に行っているため、「昼夜の営業時間でそれぞれ50杯作るのが限度だ」と言う。 スープに使用する素材には強いこだわりがあり、厳選しているため原価率は35%と高い。「安い素材を大量に入れても、本物の味は出せませんから」とここも譲らない。 現在の看板メニューは、醤油の「魚沼三元豚 中華そば」だが、「いつか塩ラーメン一本でやっていける店にしたい」という目標を掲げる。小林店主が理想とするラーメンとは「素材をとことん吟味し、不要なものをそぎ落とした先にたどり着く味。究極の〝引き算のラーメン〟ですね」と語る。 魚沼産の三元豚入りそぼろと豚足を香ばしくあぶった「那由多ご飯」。 醤油だれと香味油をかけて鰹節を添えた「ネギご飯」。どちらも並200円、小100円 食材にかけるコストは他店と一桁違う スープの温度は90度Cを厳守 スープは魚沼産の三元豚と大山地鶏で取る。植物性飼料だけ育つ魚沼産三元豚は、通常の豚よりもはるかに飼育期間が長く、豚特有の臭みがない。炊いたときにうま味だけが溶け出し、スープの品格を上げる。豚と鶏の比率は約7対3。 和風だしに使用する魚介類の詳細については企業秘密とのことだが、昆布は北海道産、鰹節は鹿児島県枕崎産、煮干しは長崎と千葉産とだけ。「煮干しに関しては、おそらく日本のラーメン店の中で一番いいものを使っていると自負しています」というこだわりだ。昆布は根元の部分だけを3種類使用。白い粉状のうま味成分がビッシリと付いている。 醤油は濃口と再仕込みの2種類を使用。チャーシューは「三元豚を使用したいところですが、原価率が高くなりすぎて商品として成立しない」ので国産豚を使用。「ラーメンはスープと麺だけで成立すると僕は考えています。具材は、実を言うと何を置いても邪魔になるんです」と言う。 徹底的にこだわった魚介の素材から作る和風だし、香味油、魚沼産の三元豚の背油、醤油だれに、90度Cにきっちり測ったスープを注ぐ。スープは炊いたものを一晩寝かせる。それを雪平鍋に注いで火にかけて、ほぼ90度Cまで温めたものを別の容器にとり、湯煎をした状態で、温度計で正確に90度Cにしてから丼に注ぐ。まるで科学の実験を見ているようだ。 こだわりの徹底に欠かせない1.25㏄の計量スプーンと、デジタル芯温センサー(温度計) らぁめん一二三 那由多の愛用食材 二段仕込 匠 正金醤油(香川県小豆郡小豆島町) うま味が強く塩辛さが少ない濃厚な醤油 正金醤油では、1919年の創業当時から仕込み続けている杉の木桶を用いた天然醸造醤油を生産。本品の原材料は国内産丸大豆100%、国内産小麦100%、メキシコ産天日製塩100%。醤油に再度、麹を仕込み、1年間醗酵熟成させたもろみから搾った再仕込醤油。刺し身、寿司、冷や奴、漬け物、焼き魚など、つけ、かけ用に適する。「らぁめん一二三 那由多」では、本品と濃口醤油を使用。どちらも小林店主が目指す100%の味に欠かせない。 規格=900ml 小林 健太郎(こばやし・けんたろう) 16歳で構想したラーメン人生 1984年東京都江東区生まれ。 高校生のころからラーメンの食べ歩きとラーメン店でのアルバイトを始める。高校卒業時にすでに自分の店を持つことを決意するが、「このままラーメン屋の修業に入ってしまっては、同じように7~8割しか満足できないラーメンしか作れないと思ったんです。人間としての視野を広げることが、いつか自分が作るラーメンに生かせるはずだ」と成蹊大学・国際文化学科に入学。在学中に世界の麺文化を研究し、卒業論文のテーマは「文化麺類額」。 在学中、知人がラーメン店を立ち上げるのに参画。卒業後、和食店で1年間働いたのち、「学生時代からここの店はおいしいと思っていた」と言う、「那由多」の前身店の「一二三」で働き、ラーメン修業を積む。当時の店長の許可を得て、「宵の一二三」という名で夜の営業を始め、自分が目指すラーメンの研鑽を重ね、現在に至る。あたらしい視点でラーメンを伝える情報誌!