フリークとともに創り出すラーメン文化に感動

黒木直人氏

和食の名店で修業を積み、イタリアンで異業種の魅力を体験し、最先端の創作和食店の副料理長を務めた黒木直人氏(41歳)。その黒木氏が料理人人生20年を節目に昨年6月、独立開業したラーメン店が「饗 くろ㐂」だ。目指すのは、味や素材はもちろんのこと店構え、店内レイアウト、さらにはスタッフの所作まで、すべてが〝上質〟なラーメン店。ファストフードのイメージが強いラーメンに上質を求める心意気とは……。


特製塩ラーメン(980円)

特製塩ラーメン(980円)

饗 くろ㐂 
所在地=東京都千代田区神田和泉町2─15 四連ビル3号館1F/営業時間=午前11時半~午後3時、6時~9時(いずれもスープがなくなり次第終了)、日祝祭日・水曜夜休み


料理人の美学を表現する至高の一杯を探究

黒木店主の料理人としての経歴を考えると、「なぜラーメン店?」という疑問が湧くが、「ラーメン以外、考えませんでしたね」と即答。その理由は「ラーメンほどチャレンジしがいのある外食はないから」。確かに、ここ10年間のラーメン業界の変遷は目覚ましい。次々に新しい味、スタイル、コンセプトの店が登場し進化し続けてきた。
「たとえばそばがこれほど進化したら、昔からのそば好きの人は『こんなのは、そばじゃない!』と拒否反応を示すと思います。ところがラーメンファンの人たちは、既成概念にとらわれずに、進化するラーメンを受け入れてくれる。これほどファンに支えられている外食って、他にないんじゃないかな」。
一般的に外食とは、食事をしながら人と語らう時間と空間を楽しむ要素が強い。ところが、ラーメンファンの場合は、やや趣を異にする。極端に言えば、その場に存在するのは〝己〟と〝ラーメン〟のみ。ひたすらラーメンと対峙し、その一杯の中に至福のひとときを見いだそうとする。
「そこまで愛されているからこそ、寸分も手が抜けません」と、開店直後からお客さんのみならず業界人からも評価が高いにもかかわらず、黒木店主は「ラーメンに向き合うときは常に初心」と謙虚だ。
その黒木店主が目指すラーメンとは?
「ひとことで言うなら上質なラーメン。ラーメンで人を感動させたいんです。たとえば、回転寿司にはいいところはたくさんあるけど、感動は少ないですよね。でも一流の寿司職人が握る寿司には感動があります。指先の動き一つ一つが、洗練されていて美しい。握られた寿司は、技が結集した作品です。僕はラーメンでそれを実現したいんです」と言う。ラーメンの味、盛り付け、素材に上質を求めるのは当然のことながら、「レードルの根元を持って、指先をピンを伸ばすと美しく見えます」と作り手の立ち居振る舞いにも上質を追求する。
「繁盛店はあっても、上質なラーメン店はまだ少ない。今から目指せば、僕がパイオニアになれるかなって思ってるんです」と黒木店主の目標は高い。ラーメン店の進化はまだまだ続きそうだ。


機能美あふれるシンプルな内装 絶妙な塩ラーメンを売り物に

機能美あふれるシンプルな内装

開業は2011年6月。店舗立地はJR秋葉原駅と浅草橋駅の中間、いずれの駅からも約800m。12坪・13席で、黒木店主の他、従業員2人で運営している。店の外観、店内ともに「和」をイメージさせる造りで、扉は白木の引き戸、L型のカウンターも白木。奥に製麺室がある。初期投資は約1300万円。
客層は近隣、遠方を問わず、週末は遠方からの来客が多くなる。年齢層も幅広く、小学生以下の来客も多くて、最年少ファンは3歳とか。平日の集客数は昼100人、夜60人。男女比は6対4。客単価は900円。夜は「肉味噌きゃべつ」や「牛すじ塩煮込み」などを酒肴に一杯も。
筆頭メニューは「特製塩ラーメン」と「塩ラーメン」だが、味噌ラーメンの名店でもある。店主いわく「あれもこれもおいしいというのでは、店の特徴が伝わりにくいので、“塩ラーメンのくろき”1本筋を通しています」。限定メニューも人気、今夏は8種類のメニューを提供。限定メニューには毎回、開店前から行列ができる。


こだわりが凝縮した清湯スープ 塩だれは海、山、湖の6種類の塩を使用

こだわりが凝縮した清湯スープ 塩だれは海、山、湖の6種類の塩を使用

鶏がらスープには、ひな鶏よりもコクのある親鶏の首肉を使用。鶏首肉は蒸してから炊き、「アクを取るとスープに力強さがなくなり、味がボケる」とアクを取らないのが黒木流。そこにオーブンとバーナーで真っ黒に焦がしたもみじを投入。「鶏肉をそのまま使うと、鶏が魚介に勝ってしまう。焦がすことで魚介を支えるスープ土台ができ、キレが出ます」。6時間炊いた後、中身を取り出し、鶏ひき肉を入れてさらに炊くと琥珀色の清湯スープが完成。
魚介のスープは羅臼昆布、サバ煮干し、焼きアゴ、サンマ、宗田鰹の厚削り、カツオの本枯れ節の厚削り、椎茸の軸を水からじっくり時間をかけて90度Cまで温度を上げ、仕上げに花かつおを加えてこす。鶏がらスープと魚介スープの割合は1対1。オーダーを受けてから合わせる。
味付けの基本となる塩へのこだわりも強い。海、山、湖から産出される6種類の塩を使用し、甘味、うま味、苦味、塩味それぞれの特徴を生かした塩だれを作る。
麺は細麺と平打ち麺の2種類。どちらも自家製麺で、小麦の甘さと香りが際立つ。麺量は140g。
具のこだわりもさまざまあるが、「特製塩ラーメン」に入っているむきエビと鶏ひき肉を合わせたワンタンは秀逸。チャーシューは豚肩ロースを特製だれに2日間漬け込み、低温で焼き上げたもの。香ばしくしっとりとした舌触りで、口の中でとろける。スープと具材に化学調味料を一切使用しないのも、店主の料理人としての心意気だ。


20年の料理人人生をラーメンに賭ける

20年の料理人人生をラーメンに賭ける

黒木直人(くろき・なおと)
1971年東京生まれ。
服部栄養専門学校を卒業後、赤坂の「三河家」で料理人としての人生をスタート。約6年間の修業の後、新分野を求めてイタリアンレストランに移る。その後、グローバルダイニングの基幹店「権八」(西麻布)に副料理長として抜擢され、同店の全メニューを開発。さらに高級店を専門とするブライト&エクセルの総料理長を務める。
独立を考えているときに、文京区湯島にある「らーめん天神下 大喜」の鶏そばの味の繊細さや盛り付けの美しさに感動。ラーメン業界の奥行きの深さに料理人魂を刺激され、20年間の経験の集大成としてラーメン一杯に表現することを目指す。
「東京生まれの僕にとって、ラーメンといえば醤油味。ラーメン業界では駆け出しの自分が、いきなりラーメンの王道に挑戦するのはおこがましいと思って」始めた塩ラーメンがたちまち人気に。塩ラーメンの基本構想は4日で完成したという。


セル・マランド・ゲランド 粗塩(輸入販売 : ㈱アクアメール)

くろきの愛用食材

セル・マランド・ゲランド 粗塩(輸入販売 : ㈱アクアメール)
ゲランドの塩は、フランス・ブルターニュ地方南部のゲランドの塩田で昔ながらの伝統製法で作られている。塩にこだわる黒木店主が「これだけは外せない」というのがこの塩。「ミネラルが豊富で、煮込むほどにうま味や甘味が出てきます。うちのたれ作りには、なくてはならない塩ですね」と一押しだ。
規格=1㎏

adminラーメントレンドフリークとともに創り出すラーメン文化に感動 和食の名店で修業を積み、イタリアンで異業種の魅力を体験し、最先端の創作和食店の副料理長を務めた黒木直人氏(41歳)。その黒木氏が料理人人生20年を節目に昨年6月、独立開業したラーメン店が「饗 くろ㐂」だ。目指すのは、味や素材はもちろんのこと店構え、店内レイアウト、さらにはスタッフの所作まで、すべてが〝上質〟なラーメン店。ファストフードのイメージが強いラーメンに上質を求める心意気とは……。 特製塩ラーメン(980円) 饗 くろ㐂  所在地=東京都千代田区神田和泉町2─15 四連ビル3号館1F/営業時間=午前11時半~午後3時、6時~9時(いずれもスープがなくなり次第終了)、日祝祭日・水曜夜休み 料理人の美学を表現する至高の一杯を探究 黒木店主の料理人としての経歴を考えると、「なぜラーメン店?」という疑問が湧くが、「ラーメン以外、考えませんでしたね」と即答。その理由は「ラーメンほどチャレンジしがいのある外食はないから」。確かに、ここ10年間のラーメン業界の変遷は目覚ましい。次々に新しい味、スタイル、コンセプトの店が登場し進化し続けてきた。 「たとえばそばがこれほど進化したら、昔からのそば好きの人は『こんなのは、そばじゃない!』と拒否反応を示すと思います。ところがラーメンファンの人たちは、既成概念にとらわれずに、進化するラーメンを受け入れてくれる。これほどファンに支えられている外食って、他にないんじゃないかな」。 一般的に外食とは、食事をしながら人と語らう時間と空間を楽しむ要素が強い。ところが、ラーメンファンの場合は、やや趣を異にする。極端に言えば、その場に存在するのは〝己〟と〝ラーメン〟のみ。ひたすらラーメンと対峙し、その一杯の中に至福のひとときを見いだそうとする。 「そこまで愛されているからこそ、寸分も手が抜けません」と、開店直後からお客さんのみならず業界人からも評価が高いにもかかわらず、黒木店主は「ラーメンに向き合うときは常に初心」と謙虚だ。 その黒木店主が目指すラーメンとは? 「ひとことで言うなら上質なラーメン。ラーメンで人を感動させたいんです。たとえば、回転寿司にはいいところはたくさんあるけど、感動は少ないですよね。でも一流の寿司職人が握る寿司には感動があります。指先の動き一つ一つが、洗練されていて美しい。握られた寿司は、技が結集した作品です。僕はラーメンでそれを実現したいんです」と言う。ラーメンの味、盛り付け、素材に上質を求めるのは当然のことながら、「レードルの根元を持って、指先をピンを伸ばすと美しく見えます」と作り手の立ち居振る舞いにも上質を追求する。 「繁盛店はあっても、上質なラーメン店はまだ少ない。今から目指せば、僕がパイオニアになれるかなって思ってるんです」と黒木店主の目標は高い。ラーメン店の進化はまだまだ続きそうだ。 機能美あふれるシンプルな内装 絶妙な塩ラーメンを売り物に 開業は2011年6月。店舗立地はJR秋葉原駅と浅草橋駅の中間、いずれの駅からも約800m。12坪・13席で、黒木店主の他、従業員2人で運営している。店の外観、店内ともに「和」をイメージさせる造りで、扉は白木の引き戸、L型のカウンターも白木。奥に製麺室がある。初期投資は約1300万円。 客層は近隣、遠方を問わず、週末は遠方からの来客が多くなる。年齢層も幅広く、小学生以下の来客も多くて、最年少ファンは3歳とか。平日の集客数は昼100人、夜60人。男女比は6対4。客単価は900円。夜は「肉味噌きゃべつ」や「牛すじ塩煮込み」などを酒肴に一杯も。 筆頭メニューは「特製塩ラーメン」と「塩ラーメン」だが、味噌ラーメンの名店でもある。店主いわく「あれもこれもおいしいというのでは、店の特徴が伝わりにくいので、“塩ラーメンのくろき”1本筋を通しています」。限定メニューも人気、今夏は8種類のメニューを提供。限定メニューには毎回、開店前から行列ができる。 こだわりが凝縮した清湯スープ 塩だれは海、山、湖の6種類の塩を使用 鶏がらスープには、ひな鶏よりもコクのある親鶏の首肉を使用。鶏首肉は蒸してから炊き、「アクを取るとスープに力強さがなくなり、味がボケる」とアクを取らないのが黒木流。そこにオーブンとバーナーで真っ黒に焦がしたもみじを投入。「鶏肉をそのまま使うと、鶏が魚介に勝ってしまう。焦がすことで魚介を支えるスープ土台ができ、キレが出ます」。6時間炊いた後、中身を取り出し、鶏ひき肉を入れてさらに炊くと琥珀色の清湯スープが完成。 魚介のスープは羅臼昆布、サバ煮干し、焼きアゴ、サンマ、宗田鰹の厚削り、カツオの本枯れ節の厚削り、椎茸の軸を水からじっくり時間をかけて90度Cまで温度を上げ、仕上げに花かつおを加えてこす。鶏がらスープと魚介スープの割合は1対1。オーダーを受けてから合わせる。 味付けの基本となる塩へのこだわりも強い。海、山、湖から産出される6種類の塩を使用し、甘味、うま味、苦味、塩味それぞれの特徴を生かした塩だれを作る。 麺は細麺と平打ち麺の2種類。どちらも自家製麺で、小麦の甘さと香りが際立つ。麺量は140g。 具のこだわりもさまざまあるが、「特製塩ラーメン」に入っているむきエビと鶏ひき肉を合わせたワンタンは秀逸。チャーシューは豚肩ロースを特製だれに2日間漬け込み、低温で焼き上げたもの。香ばしくしっとりとした舌触りで、口の中でとろける。スープと具材に化学調味料を一切使用しないのも、店主の料理人としての心意気だ。 20年の料理人人生をラーメンに賭ける 黒木直人(くろき・なおと) 1971年東京生まれ。 服部栄養専門学校を卒業後、赤坂の「三河家」で料理人としての人生をスタート。約6年間の修業の後、新分野を求めてイタリアンレストランに移る。その後、グローバルダイニングの基幹店「権八」(西麻布)に副料理長として抜擢され、同店の全メニューを開発。さらに高級店を専門とするブライト&エクセルの総料理長を務める。 独立を考えているときに、文京区湯島にある「らーめん天神下 大喜」の鶏そばの味の繊細さや盛り付けの美しさに感動。ラーメン業界の奥行きの深さに料理人魂を刺激され、20年間の経験の集大成としてラーメン一杯に表現することを目指す。 「東京生まれの僕にとって、ラーメンといえば醤油味。ラーメン業界では駆け出しの自分が、いきなりラーメンの王道に挑戦するのはおこがましいと思って」始めた塩ラーメンがたちまち人気に。塩ラーメンの基本構想は4日で完成したという。 くろきの愛用食材 セル・マランド・ゲランド 粗塩(輸入販売 : ㈱アクアメール) ゲランドの塩は、フランス・ブルターニュ地方南部のゲランドの塩田で昔ながらの伝統製法で作られている。塩にこだわる黒木店主が「これだけは外せない」というのがこの塩。「ミネラルが豊富で、煮込むほどにうま味や甘味が出てきます。うちのたれ作りには、なくてはならない塩ですね」と一押しだ。 規格=1㎏あたらしい視点でラーメンを伝える情報誌!