お客の〝思い出ラーメン〟を目指す

中野、阿佐ヶ谷、荻窪が並ぶ中央線沿線はラーメン激戦地だ。都心に比べて若干家賃は安いとはいうものの、出店しても数年で消えていく店も多い。そんな中、開業以来12年間、繁盛を維持している店がある。「吉祥寺 武蔵家」だ。20坪・15席でコンスタントに400〜500杯を売り上げ、週末にはさらに客足が伸びるという。派手なPRをしているわけではないし、メディアで大きく取り上げられているわけでもない。12年間の繁盛を継続させる原動力はどこにあるのか。藤﨑茂也店主に取材した。

“とんがった”味より定番が愛される理由

──昔と今のラーメンの違いは?
藤﨑 昔は、ラーメンは中華屋さんのメニューの一つでしかなかった。ラーメン屋といわれている店でも、ラーメンの他にもギョウザ、野菜炒め、レバニラ炒めなどがあり、たまたまおいしいラーメンを出す店があると話題になったりしましたね。今のようなラーメンだけを出す専門店が登場するようになったのは、今から15年くらい前のことでしょうか。おいしいラーメン店が登場するたびに話題を呼び、食べ歩きをするラーメンファンが急増したのもその頃だと思います。でも今は、どこのラーメン店もそれぞれおいしい。レシピとかもネットに流れているので、ちょっと勉強すれば、あるレベルまでのラーメンなら作れます。

──求めるラーメンは?
藤﨑 僕の中のラーメンとは、たとえば、高校生が部活帰りに食べるラーメン。量があって、白いご飯が欲しくなるようなしょっぱい味で、ラーメンライスでおなかいっぱいになる。実際、高校生の頃から来てくれていたお客さんが、大学生になって彼女と一緒に来て「この店のラーメンが一番おいしいんだ」と紹介してくれる。その後、結婚して親子3人で来てくれたりします。僕が「他にもおいしいラーメンはあるでしょ」と言うと「僕にとって、ここのラーメンは思い出の味なんです。この味を超えるラーメンはありません」と言ってくれるんですね。
このラーメンを食べるために毎日、部活を頑張っていたとか、昔彼女と食べたとか、失恋したときこのラーメンを食べてちょっと救われたとか。僕はそういう〝思いのラーメン〟を作りたいと思っているんです。それも、12年間、同じ土地でやっているからこそ、できることだと思っています。3世代通ってもらえるラーメン店、それが「武蔵家」の目指す店です。

──〝思い出ラーメン〟は強い?
藤﨑 うちのラーメンは、食べたときは「これがそんなに売れてるの?」と思うかもしれません。僕は、その場で満点取れなくてもいいと思っています。食べてくれた人の思い出と結び付いて、5年後、10年後に満点になればいいかなと。そうはいっても、うちの家系ラーメンも、かなりレベルが高いと思いますけどね。
今の店って、新しいこと、変わったことを次から次へと求めるでしょ。でも、それってキリがない。一時的に雑誌やTVで取り上げられても、それを10年続けるのは難しいと思うんです。うちは雑誌を見て、わざわざ来るような店ではないけど、雑誌にのっている店より売れている自信があります。

──繁盛の秘訣は?
藤﨑 みんな、ラーメンを複雑に考え過ぎているんじゃないかな。もっとシンプルに考えていいと思う。麺、たれ、スープのどれも100点満点を追求しようとするけど、僕は、1つ1つはそこそこだけど、3つが一緒になるとうまいというのでいいと思っています。チームで勝つということですね。
あと、ラーメンの出来栄えって、90点までは情報収集と努力で作れるけど、残りの10点を埋めるのが物すごく難しい。その10点をクリアするために材料にお金をかけ過ぎて、売値が高くなっては元も子もない。延々と味の研究をしてくたびれちゃうくらいなら、他の付加価値を付けて売れるラーメンを作ればいいと思うんです。おいしくて当たり前。おいしいことが大前提で、たとえば、接客をよくしたり、ライスを50円でお代わり自由にしたり、味の濃さや麺の硬さなどの要望を聞くとか。値段も大事。つい先日、30円値上げしたけど、うちは消費税が上がったときも値上げしないで、ずーっと600円やってきました。売れるためにできることはいっぱいあります。

──今後の展開は?
藤﨑 うまいラーメンを看板メニューにした定食屋。今、定食屋には勢いがあります。10年前、ラーメン専門店が登場した頃に並ぶくらいじゃないかな。豚骨醤油ラーメンを柱にして、男性が好きなガッツリ系のメニューが並ぶ店です。さっきも言ったように、今のラーメン専門店は甲乙つけがたいから、ラーメンだけで集客するのは厳しくなっていると思うんです。ラーメンは間違いなくうまくて、その上、豚カツもハンバーグもいけるとなれば、毎日行っても食べ飽きない。ラーメン好きだって、たまにはカレーやカツ丼が食べたくなるでしょ。「キッチン男の晩御飯」の店名で阿佐ヶ谷と三鷹に出していますが、来年は定食屋にも力を入れていくつもりです。


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ラーメン 630円

こだわりの家系
濃厚な豚骨醤油スープ、ホウレンソウ、海苔、極太麺を特徴とする“家系”ラーメン。がらスープをとる骨はすべて国産。冷凍品も使わない。スープと香味油は別々に取り、家系ラーメンの決め手となる鶏油が豚油とまじらないようこだわる。濃いめの味で、50円でお代わり自由のライスとの相性が抜群。


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あご塩ラーメン 630円

家系に並ぶ双璧
魚介素材に長崎産のアゴ(トビウオ)を使用。アゴの煮干しは上品でスッキリとした甘味と独自のうま味のあるだしが取れ、塩ラーメンには最適。


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キャベチャー 630円

お客の半数以上が注文
ラーメンのたれ、ニンニク、ショウガ、ごま油などで作った特性だれとキャベツ、チャーシューをあえたもの。そのまま食べても、トッピングにしてもよし。


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吉祥寺 武蔵家

所在地=東京都武蔵野市吉祥寺南町2─11─1
開業=1999年5月
営業時間=午前11時〜午前1時半(日曜日は午前0時半)、無休(年末年始を除く)
坪数・席数=11坪・15席
1日の平均来店客数=450人


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藤﨑 茂也(ふじさき・しげや)

1978年東京都武蔵野市出身。
父親が都内で居酒屋を営業し、父親が他界した後も家族で飲食店を営む。大学卒業後、システムエンジニアとしてコンピューター会社に1年間勤務。退職後、家系ラーメン「武蔵家」を吉祥寺に開店。同店を拠点にラーメン店、定食屋など10店舗を手掛ける。多摩地区のラーメン店12店舗が集まって、地域活性化の活動をする「多摩組」の組長を務める。ラーメン店、定食屋など10店を展開

adminコラムお客の〝思い出ラーメン〟を目指す 中野、阿佐ヶ谷、荻窪が並ぶ中央線沿線はラーメン激戦地だ。都心に比べて若干家賃は安いとはいうものの、出店しても数年で消えていく店も多い。そんな中、開業以来12年間、繁盛を維持している店がある。「吉祥寺 武蔵家」だ。20坪・15席でコンスタントに400〜500杯を売り上げ、週末にはさらに客足が伸びるという。派手なPRをしているわけではないし、メディアで大きく取り上げられているわけでもない。12年間の繁盛を継続させる原動力はどこにあるのか。藤﨑茂也店主に取材した。 “とんがった”味より定番が愛される理由 ──昔と今のラーメンの違いは? 藤﨑 昔は、ラーメンは中華屋さんのメニューの一つでしかなかった。ラーメン屋といわれている店でも、ラーメンの他にもギョウザ、野菜炒め、レバニラ炒めなどがあり、たまたまおいしいラーメンを出す店があると話題になったりしましたね。今のようなラーメンだけを出す専門店が登場するようになったのは、今から15年くらい前のことでしょうか。おいしいラーメン店が登場するたびに話題を呼び、食べ歩きをするラーメンファンが急増したのもその頃だと思います。でも今は、どこのラーメン店もそれぞれおいしい。レシピとかもネットに流れているので、ちょっと勉強すれば、あるレベルまでのラーメンなら作れます。 ──求めるラーメンは? 藤﨑 僕の中のラーメンとは、たとえば、高校生が部活帰りに食べるラーメン。量があって、白いご飯が欲しくなるようなしょっぱい味で、ラーメンライスでおなかいっぱいになる。実際、高校生の頃から来てくれていたお客さんが、大学生になって彼女と一緒に来て「この店のラーメンが一番おいしいんだ」と紹介してくれる。その後、結婚して親子3人で来てくれたりします。僕が「他にもおいしいラーメンはあるでしょ」と言うと「僕にとって、ここのラーメンは思い出の味なんです。この味を超えるラーメンはありません」と言ってくれるんですね。 このラーメンを食べるために毎日、部活を頑張っていたとか、昔彼女と食べたとか、失恋したときこのラーメンを食べてちょっと救われたとか。僕はそういう〝思いのラーメン〟を作りたいと思っているんです。それも、12年間、同じ土地でやっているからこそ、できることだと思っています。3世代通ってもらえるラーメン店、それが「武蔵家」の目指す店です。 ──〝思い出ラーメン〟は強い? 藤﨑 うちのラーメンは、食べたときは「これがそんなに売れてるの?」と思うかもしれません。僕は、その場で満点取れなくてもいいと思っています。食べてくれた人の思い出と結び付いて、5年後、10年後に満点になればいいかなと。そうはいっても、うちの家系ラーメンも、かなりレベルが高いと思いますけどね。 今の店って、新しいこと、変わったことを次から次へと求めるでしょ。でも、それってキリがない。一時的に雑誌やTVで取り上げられても、それを10年続けるのは難しいと思うんです。うちは雑誌を見て、わざわざ来るような店ではないけど、雑誌にのっている店より売れている自信があります。 ──繁盛の秘訣は? 藤﨑 みんな、ラーメンを複雑に考え過ぎているんじゃないかな。もっとシンプルに考えていいと思う。麺、たれ、スープのどれも100点満点を追求しようとするけど、僕は、1つ1つはそこそこだけど、3つが一緒になるとうまいというのでいいと思っています。チームで勝つということですね。 あと、ラーメンの出来栄えって、90点までは情報収集と努力で作れるけど、残りの10点を埋めるのが物すごく難しい。その10点をクリアするために材料にお金をかけ過ぎて、売値が高くなっては元も子もない。延々と味の研究をしてくたびれちゃうくらいなら、他の付加価値を付けて売れるラーメンを作ればいいと思うんです。おいしくて当たり前。おいしいことが大前提で、たとえば、接客をよくしたり、ライスを50円でお代わり自由にしたり、味の濃さや麺の硬さなどの要望を聞くとか。値段も大事。つい先日、30円値上げしたけど、うちは消費税が上がったときも値上げしないで、ずーっと600円やってきました。売れるためにできることはいっぱいあります。 ──今後の展開は? 藤﨑 うまいラーメンを看板メニューにした定食屋。今、定食屋には勢いがあります。10年前、ラーメン専門店が登場した頃に並ぶくらいじゃないかな。豚骨醤油ラーメンを柱にして、男性が好きなガッツリ系のメニューが並ぶ店です。さっきも言ったように、今のラーメン専門店は甲乙つけがたいから、ラーメンだけで集客するのは厳しくなっていると思うんです。ラーメンは間違いなくうまくて、その上、豚カツもハンバーグもいけるとなれば、毎日行っても食べ飽きない。ラーメン好きだって、たまにはカレーやカツ丼が食べたくなるでしょ。「キッチン男の晩御飯」の店名で阿佐ヶ谷と三鷹に出していますが、来年は定食屋にも力を入れていくつもりです。 ラーメン 630円 こだわりの家系 濃厚な豚骨醤油スープ、ホウレンソウ、海苔、極太麺を特徴とする“家系”ラーメン。がらスープをとる骨はすべて国産。冷凍品も使わない。スープと香味油は別々に取り、家系ラーメンの決め手となる鶏油が豚油とまじらないようこだわる。濃いめの味で、50円でお代わり自由のライスとの相性が抜群。 あご塩ラーメン 630円 家系に並ぶ双璧 魚介素材に長崎産のアゴ(トビウオ)を使用。アゴの煮干しは上品でスッキリとした甘味と独自のうま味のあるだしが取れ、塩ラーメンには最適。 キャベチャー 630円 お客の半数以上が注文 ラーメンのたれ、ニンニク、ショウガ、ごま油などで作った特性だれとキャベツ、チャーシューをあえたもの。そのまま食べても、トッピングにしてもよし。 吉祥寺 武蔵家 所在地=東京都武蔵野市吉祥寺南町2─11─1 開業=1999年5月 営業時間=午前11時〜午前1時半(日曜日は午前0時半)、無休(年末年始を除く) 坪数・席数=11坪・15席 1日の平均来店客数=450人 藤﨑 茂也(ふじさき・しげや) 1978年東京都武蔵野市出身。 父親が都内で居酒屋を営業し、父親が他界した後も家族で飲食店を営む。大学卒業後、システムエンジニアとしてコンピューター会社に1年間勤務。退職後、家系ラーメン「武蔵家」を吉祥寺に開店。同店を拠点にラーメン店、定食屋など10店舗を手掛ける。多摩地区のラーメン店12店舗が集まって、地域活性化の活動をする「多摩組」の組長を務める。ラーメン店、定食屋など10店を展開あたらしい視点でラーメンを伝える情報誌!